49.真夏の夜の夢
朝です。朝食のあとかたづけや、テントの裾からげ、持ち物の整頓、工具の手入れ、革具の手入れ、サイトの清掃もあらかた終わって、手を洗ったり、服装を整えて、早い者はもう整列をし始めていました。点検の時刻にまもないひとときでありました。
突如として、所長と隊長が所員を連れて、僕の班のサイトにやってきました。あわてて整列しました。
所長は誰なのか、夢のお話なのではっきりわかりません。隊長もそうです。
『けさは、みんなの鼻の点検をする』と、所長はいいきりました。
爪や、舌の点検はよくやるが、鼻の点検とは一体何だろうか? 班長の僕は、一瞬どぎまぎしました。
すると、1人の所員が、モノサシを右手にもって、僕の前へつかつかと進みよって、鼻の高さを測るのです。
そして、何メートルとか大きな声で呼びあげると、隊長が「よし」といいながらノートに記しました。
こうして班の者全員におよんだと思うと、サイトのほかの部分は何一つ点検しないで、さっと立ち去ったのであります。一体僕の鼻は何メートルも高いのか?
その日の午前、計測法の講義があり、閑時作業として体尺(からだのモノサシ)が課せられました。眼の高さだの、両腕を左右にひろげた径間だの親指と人差し指を張った寸法だの…。だが鼻の高さの測定は指示されませんでした。
夢のなかで、いつのまにか僕は所長になっていたのです。そして、こんなことをしゃべっていました。
『鼻の高さは不定であるから、体尺に加えなかった。毎秒ごとに高さが変わるものであります。低くなっているときは、大てい劣等感をもったときであり、高いときは、優越感をもった場合であります。自己本来のペースというか、その人固有の鼻の高さというものは、有史以来誰も発見したものがないそうであります。そんなきわめて、たよりにならないものですから、実修所を終了したぐらいでお天狗になるならば、どういうことになるでしょうか?…。』
そのあとの言葉は忘れましたが、私の目の前には、誰一人も居ない。私は、寝床の中で目がさめました。
(昭和33年8月3日 記)