45.コミッショナーの質問
華々しい楽隊に迎えられて小倉の夜の町で下車したのも、早や一ヶ月前の昔話になりました。5月1日のメーデーに皆さまを東谷の道場、童心門でお迎えしたあの日からの一週間は、まだ醒める夜のように思われます。
さて皆さまは、その後ご健在のことでしょう。私は当地に帰った翌日から次の仕事に忙殺されました。それは5月14日をもって東京に発足する資料編集委員会への準備でありました。それには日本最初の隊長研究所(編者注:昭和25年福岡県連盟担当実習所の前身)で経験したことを一応整理して、その会議に報告することが含まれていました。
5月16日会議を終わって帰広してからはコミッショナー制を設置すること、上級スカウト制を始めることという、二つの大きなプロジェクトを課せられ、目下それと昼夜取り組んでおります。研修所でも問題になりました15才以上のスカウトへのプログラムは、結局3段階の制度とし技能章プロジェクトでこれを盛り上げる。そのため日本BSの技能章制度を整備しなければならないので東京、静岡、大阪の委員達に交わって、私もその分担を引きうけ資料を携えて帰りました。けれども私にとってより緊急なプロジェクトは、コミッショナー制度樹立の方でありまして、今やそれと取り組んで居る次第です。
アメリカのコミッショナーの書物を一応勉強中であります。その本の中には次のようなことが書いてある。これは私が年来考えていたことと完全に一致します。それで、その文章をそのまま引きぬいてみましょう。これはコミッショナーとして隊の監査をするときのことを書いた章にあるのです。
まず第一に重要なことはコミッショナーが隊の組織を解釈することで、その時彼の最初の質問は「班別制度をやっていますか?」という質問である。どの隊長も勿論「やっています」と答えるだろう。
だがしかし、本当にやっているだろうか? 賢明なるコミッショナーは班別制度について、次の質問をさらに発するであろう。
a、隊は班構成の基本として自然的児群を用いていますか? 班は仲間達相互の組んだ形成になっていますか?そして彼等は自分達で班長を選びましたか?
b、隊活動は班によって営まれていますか?
c、班長は隊長やまたはその助手によって訓練されていますか?
d、各班とそれ等の班員達は、隊全体のディスカッションにデモクラティックな(民主的な)発言をあたえられていますか?
もし、班別制度が強く行われ、少年リーダー達が、プログラムの起案やその運用に発言をあたえられているならば、その隊は堅固な足場に立つものとコミッショナーは確認してよろしい。
次にコミッショナーは隊の指導陣を見る。そこに隊長たる能力をもった一人の人が居るか? その人の助手になるべき適当な人があるか? 強力かつ活動的な隊委員会があって隊長に協力して働いているか?
という一文であります。これを見ると、アメリカにも本式の班別制度をやっていない隊があるように思われる。
形式的には班というものは作ってはある。けれども、それは「作った」ものであって、大人の指図で子供に作らしたものにすぎない。
自然発生的な児群というものに根ざしていない。すなわち一種の造花にすぎない。
班長という二本棒をつけた者はあるにはあるが、大人が任命したもので、子供が選んだ班長ではない。
隊活動は相当やっているが、隊の一斉訓練であり、集合訓練であり、そこに班活動が無視されている。集合はいつも隊としてやっていて、班集会もなければ班訓練もない。
従って班にプログラムがなく役割の分担もない。班長訓練(グリンバー)は一つもやっていない。班長は班員と一緒に訓練をうけている。
班員達は隊長始め、隊幹部に引きまわされていて自分の意見をのべる機会を封ぜられている。
隊長の考えどおり一切引きまわす。あたかも軍隊の司令官のように。ボスのように。
こうゆうボーイスカウトが一体アメリカにもあるのだろうか? 日本には、昔からこんなのが沢山あり、再建後の現在でもある。厳密に申せば、そんな組織の団体はボーイスカウトではない。軍隊式である。
だから、事は非常に重大であるから、コミッショナーはまず第一にこの点について質問を発する――というわけである。
次に隊長たる資格者が、もし一人もないならば、隊は出来ないことは申すまでもない。そうして、副長とか、副長補とか或いは隊付とかいう助手がなくて隊長一人だけ、すなわちワンマン隊というものは、これも考えものだ。
研修所の答案中ワンマンの隊が二三あったが――。また強力な隊委員会がなくて一切合財隊長の一人舞台であることも困る。この点、日本の育成会や隊委員会は、大体においてBSのことをあまりご存じない。それがそもそも間違いである。
アメリカの隊委員会は自分の隊および、隊長の監査をやる義務と能力をもっている。それには隊委員や育成会員のための講習会や研修所があって、隊委員も育成会員も一かどの指導者資格をもっている。だから心から本気になって隊長に協力できるのである。従って地区委員会とか各種委員会なり、県連なりが充実して行ける。
日本では隊長が何もかも一人で兼任の風がある。これでは隊の成績もあがらないし、BS運動全体が進展しない。しかもこれを是正する係の、コミッショナーという役も、日本には今のところ無いから、是正する途もない。
私は、こんなことを思いながら目下勉強中であります。読者の中には、思いあたる方もあり、私と同感の方もおありのことと思います。
日本ボーイスカウトが国際的に復帰する日を迎えて、いよいよ内容、陣容、制度を充実せねばならないと切に思います。けれどもあまり熱心でない方々には申し上げても無駄だと思うことさえあるのです。幸いに日本最初の隊長研修所を開かれた、福岡県連盟の方々なら、こんなことを申し上げても、お同感願えると信じますので、書き誌しました。
(昭和25年5月30日 記)